心臓リハビリテーションと聞くと、「心臓が悪いのになんでリハビリするの?」と思われる方も多いと思います。
当然のことながら、心臓の働きが低下していますので、無理に運動をすることはできません。
しかし、長時間安静にしていると、むしろ心臓の機能は低下してしまい、さらに全身の筋力も衰えて、ますます動くことができなくなります。
心臓リハビリテーションでは、専門のスタッフと機器を用いて、運動時の心臓の動きを確認しながら、その人に合った適切な運動強度と運動時間を設定した上で運動療法を実施します。
同時に、正しい心臓の知識と適切な生活指導を行うことで、再び心臓病にかからないように学習していきます。
運動療法と心臓病の学習、生活指導(食事指導・薬剤指導・禁煙指導など)を組み合わせて、社会復帰と心肺機能の予防を目的とすることが心臓リハビリテーションです。
訓練を継続することによって、次のような効果が期待できます。
心臓リハビリテーションは死亡率を56%減少させ、再発を28%減らすとされています。
発症・手術から間もない時期には、急性期合併症の監視や治療に注意が必要で、血液検査や画像診断、胸の痛みや息切れなどの症状が悪化していないことを確認しながら、段階的に離床活動をすすめます。心理的なサポートやリハビリの動機づけといった精神的なサポートも重要です。
急性期心臓リハビリの目標は食事・排泄・入浴などの身の回りの事を安全に行うことが出来るようになる事です。
包括的なリハビリテーションとして、医学的評価、運動療法、禁煙教育、食事療法・冠危険因子の適切な治療、復職指導・心理的サポートを行います。
具体的な運動療法としてはトイレなどで歩くことが心臓に負担なく行える状態になると、準備体操を行ったうえで適切な有酸素運動の強度を確認して、自転車こぎやウォーキングを行い、同時に手足の筋力トレーニングを行うことで心臓の負担を減らします。運動後は整理体操で心臓への負担にならないよう行っていきます。
安静が長期化することで筋力低下や認知機能低下を起こし、立ったり歩いたりするのが不安定な場合は、筋力・身の回り動作の回復を中心とした運動療法を行う等、個別的に運動プログラムを立案していきます。
心臓や手術後の状態が安定していることを確認し、社会生活への復帰(退院)となります。生活での注意点や有酸素運動の継続に、一人一人に合った自主練習を説明します。
獲得した運動能力・生活習慣の是正・冠危険因子の是正を維持する、患者様やその家族による健康管理が中心となります。心臓リハビリでは個々の生活レベルに合ったプログラムを提供します。
病状が安定していても、薬物療法と同じくらい有酸素運動や手足の筋力トレーニングの継続することが再発や合併症の予防に繋がります。また適切な運動の継続は健康寿命を延ばす効果があります。
記録手帳 |
歩数計 |
活動量計 |
当院では健康管理のため、手帳を用いて指導を行っています。手帳の中には心臓病に関わる基本知識や注意点の他、日々の健康状態を記録するページがあり、これを活用することで退院後も健康管理を自ら行う事が出来ます。
歩数や日々の活動量の計測に関しては歩数計の購入をすすめたり、活動量計の貸し出しを検討しています。
活動量計については、日々の生活の中でどのくらいの負荷で生活しているのかを知ることが出来るため、より詳細な運動量の把握や個別的な指導を行う事ができます。
後期回復期~維持期に関しては、再発予防の意識が重要になります。
当院の心臓リハビリテーション室は広々としたスペースでリハビリを行うことができます。3階フロアにあるため、見晴らしが良く、訓練中も外の景色を見ることが出来るため、患者様からも好評です。
日本心臓リハビリテーション学会から認定された心臓リハビリテーション指導士が、安全かつ効果的なリハビリテーションを丁寧に指導しています。
あおもり協立病院 副院長
心臓リハビリテーション専任医師
内藤 貴之
多職種カンファレンスの風景
当院の心臓リハビリテーションチーム(医師・看護師・薬剤師・理学療法士・作業療法士・管理栄養士)
人間は酸素を吸って二酸化炭素を吐くという呼吸をしています。軽い運動の場合は取り込んだ酸素の量と吐き出した二酸化炭素の量は同じ割合となります。これを有酸素運動といい、酸素が十分に取り込め心臓に負担のかからない運動です。しかし運動量が増加すると筋肉に乳酸がたまりはじめ、その乳酸を減らそうとするための代謝が加わり、二酸化炭素の吐き出す量が増えてきます。この運動を無酸素運動といい、酸素が不足した心臓に負担のかかる運動です。ATというのはこの有酸素運動と無酸素運動との切り替えの点です。トレーニングしていただく運動量はきつすぎても体に負担となりますし、逆に軽すぎても効果は期待できません。すなわちATは心臓に負担無く、さらに効率よくトレーニングをしていただける運動量と言えます。心肺運動負荷試験の検査データを解析し、ATがどのくらいか、最大どこまでがんばれたか、そして今後の具体的なトレーニング方法等の指導をさせていただきます。
左:負荷心電図装置(日本光電STS-2100)
中:自転車エルゴメーター(三菱電機エンジニアリング ストレングスエルゴ8)
右:呼気ガス分析装置(ミナト医科学AE310S)
心肺運動負荷試験の検査風景
(医師・臨床検査技師・理学療法士・作業療法士が検査データを確認しながら進めています)
トレッドミル装置
トレッドミル訓練実施風景
病棟での循環器病予防教室の様子
運動後のタンパク摂取の様子
洗濯干しの模擬動作の様子
畑仕事、雪囲いの模擬動作の様子
管理栄養士が患者様の病態に応じた食事療法をご提案します。
何をどのくらい食べたらよいか、食べ方のコツや調理の工夫について、患者様のライフスタイルに合わせた具体的な料理方法や献立をお話します。
具体的には、心疾患の背景にある基礎疾患(高血圧・糖尿病・高コレステロール血症・高尿酸血症・肥満など)に対して、バランスの良いお食事についてお話します。
塩分摂取量が多い方には減塩についての指導をご本人やご家族に行います。塩分量の多い食品についてお伝えし、改善を促す場合があります。ただし、高齢者の場合は過度な塩分制限で食欲が低下するおそれがあるため、食事量が落ちないように配慮することも同時にお話しさせて頂いております。
心臓リハビリテーションを受けられる患者様の多くが、薬物療法を受けられています。
薬物療法で使用される主なお薬は体から尿として水を排出するお薬(利尿薬)と血圧を下げるお薬(降圧薬)です。それらのいくつか組み合わせて心臓の負担を軽くします。
利尿薬を飲んでいる患者様は血液中のナトリウムやカリウムの値が変動することがあります。そのため、お薬を調剤する際に血液検査の結果を見ながら患者様にあったお薬を提案します。
さらに患者様のライフスタイルに合わせて確実に飲んでいただけるように工夫します。例えば、朝食後の薬は欠かさず飲めるが夕食後の薬は飲むのを忘れてしまう方であれば1日1回飲めば効くお薬を医師に提案したり、朝食後だけにまとめたりします。
確実にお薬を飲むことは心臓リハビリテーションでは特に重要です。薬剤師は飲み忘れなく正しく服用できるようにお手伝いをしています。
慢性心不全看護認定看護師とは、心不全などの心疾患を抱えている患者様や家族に対して専門的な知識や技術をもって関わり、QOLの向上を手助けする役割を担っています。
心不全とは心臓のポンプ機能が果たせなくなった状態であり、一度発症してしまうと元の心臓の動きを取り戻す事が難しくなります。治療で症状が改善しても増悪予防ができていないため再入院してしまうという現状が多いです。内服の徹底や塩分制限、適度な運動、毎日の血圧測定や体重測定など健康管理をしていくなど退院後に課題がたくさんあります。今までの生活様式や生活習慣を変えることは容易ではありません。そこで、心不全で入院してくる患者様に対して、心不全と上手く付き合って望む生活をしていくために、患者様の生活背景を捉え、患者様や家族が抱えている思いなどを踏まえてその人らしく生活できるようサポートしていく活動をしています。
また、心不全は寛解と増悪を繰り返す病気です。入院を繰り返しているうちにいままで出来ていた事が徐々にできなくなり、患者様や家族が色々な不安や悩みが出てくると思います。その人らしい人生を送れるように心不全の病態について説明し、緩和チームで介入し苦痛のないように支援しています。
退院後、身体機能の回復と疾病の再発予防を図るために、継続して心臓リハビリテーションを実施していくことは大変重要です。
「自分の病気は何に気を付けたらいいのだろう?」「もっと動けるようになりたいけどどのような運動をしたらいいかわからない。」「他の人はどういう風に生活しているのだろう」「悩んでいるのは私だけだろうか?」など心臓病を抱えながら生活していて、悩むことはとても多いと思います。
外来心臓リハビリテーションでは専門的知識をもった医療スタッフのサポートと同じ心臓病を抱えながら過ごされている患者様同士が会話を楽しみながらリハビリテーションを行っています。
心肺機能や筋力などから、現在どの程度運動に耐えられる能力を有しているかを医師や心臓リハビリテーションスタッフ(理学療法士・作業療法士)から説明を受け、負担のかかりにくい生活動作や職業動作を学習することで、過度な運動・動作を行うことによる疾病悪化を防ぐことができます。また、運動療法により、運動に耐えられる能力そのものをさらに向上することで、できる運動・動作が拡大し、自身の希望する生活を送ることができるようになります。
運動療法だけではなく、普段の食事内容から注意するポイントなど管理栄養士から食事指導も受けることもできます。
定期的に外来心臓リハビリテーションに通うことは、医師や心臓リハビリテーションスタッフ(理学療法士・作業療法士)が安静時では症状が出にくい運動時の小さな悪化徴候を早期に発見でき、悪化する前に、検査や投薬変更など必要な対応が可能となります。再入院を未然に防ぐことができたり、入院になった場合でも重篤な状態となる前に治療へつなげ、早期退院を可能としたりすることが出来ます。
個人により運動の種類、強度、回数は変わります。以下に示すのは標準的な内容です。
身体を安静から運動へ移行させる準備段階として、全身のストレッチ体操や軽い関節運動を行います。心肺機能を次の運動のレベルに近づけながら、関節の動きの範囲を広げ、筋肉を伸張することで、身体のパフォーマンス能力を上げるとともに、運動による筋肉の損傷などケガの予防を図ります。概ね10分程度行います。
自転車エルゴメータやトレッドミルを使用して、持久力運動を行います。
負荷量はその人合わせて負担のかからないかつ効果的な強さで実施します。
また、運動中の血圧、心電図波形、自覚症状など確認しながら実施します。
概ね20~30分実施します。
当院では重錘バンド、ゴムチューブ、ダンベルなどを使用して、筋肉に抵抗をかけて筋機能を高めるトレーニングを行います。持久力トレーニングと同様、負荷量はその人に合わせて負担のかからないかつ効果的な強さで実施します。
概ね10~15分程度実施します。
呼吸を整え、使用した筋肉をほぐしていき、安静時の状態にゆっくり戻していきます。
概ね5~10分程度行います。
*初回および3か月に1度、身体機能評価を行います。
*認知機能テストに関しては心臓が悪いのになぜ認知機能と思われるかもしれませんが、生活習慣の是正、記録や適切な運動方法の理解、服薬管理等に関して重要な意味を持ちます。
*心肺運動負荷試験は半年に1回程度で提案させていただきます。
下肢膝伸展筋力測定風景
外来心臓リハビリテーションは完全予約制です。予約枠に空きがあるかどうか、まずは当院まで電話にてご確認お願いします。
他院入院中の方は入院されている病院の主治医に一度ご相談して頂き、互いの地域連携室スタッフ間でご確認することをお勧めいたします。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | |
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10:00~11:00(定員6名まで) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
11:10~12:10(定員6名まで) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
電話番号 : 017-762-5500(病院代表)
外来での心臓リハビリテーションは完全予約制です。
ご希望の方はお電話にてご確認お願い致します。
*予約の空き状況によって、希望に添えない場合がありますのでご了承ください。
外来心臓リハビリテーション開始前には心臓リハビリテーション専任医内藤医師の診察を行う必要があります。協立クリニックへお電話にて確認して頂き、診察予約をお願いいたします。診察当日は紹介状や情報提供書がある場合は必ずご持参お願いします。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | |
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内藤(午前9:00~) | ○ | ○ | 別記 |
内藤医師との診察後、協立病院3F心臓リハビリテーション室にご誘導します。
担当する心臓リハビリテーションスタッフから心臓リハビリテーションの概要説明があります。その後、ご希望の日時と時間を確認し、初回予約を致します。予約票が発行されます。(診察日当日は心臓リハビリテーションは行いません。)
予約票を持参し、協立病院2F受付に提出し、3F心臓リハビリテーション室までご来室お願いします。開始時間は心臓リハビリテーションを開始する時間です。開始前には検温、血圧・体重測定、メディカルチェックがございます。開始時間の15~20分前にはご来室ください。
*新型コロナウィルス対策
マスク装着の上、リハビリテーションを行っております。
新型コロナウィルス対策には万全を期して対応しておりますが、①発熱や風邪症状がある方②普段同居していない方とのマスクなしでの会話や会食を行った場合③同居している方や職場関係者が新型コロナ陽性もしくは濃厚接触者となった場合は来院前に必ず電話にてご連絡お願いいたします。当院感染管理室スタッフと相談のうえ今後の対応を提案させていただきます。
心大血管リハビリテーション料Ⅰ
1割負担者の場合 約700円
2割負担者の場合 約1400円
3割負担者の場合 約2000円